マービン・ハグラー 2
- H. Inoue
- 2021年3月23日
- 読了時間: 3分
更新日:2021年3月31日
やはりレナードとの"再戦の火"は消えていなかった? ハグラーの死を知ったいま、あの一戦をまた思い返し、考えをめぐらせている――
下里 淳一
Junichi Shimozato
強いのはハグラー、勝ったのはレナード
マービン・ハグラーの死で、シュガー・レイ・レナード戦を思い返した。
運転していて、やたら赤信号にぶつかるので、落ち着いて気分変えなきゃと、そしたら、その一戦が浮かんだ。
軍配はレナードに上がったが、ハグラー勝ちの声もあった。

現行ルールに則れば、差し違えなし、微差ではあってもレナード勝利は明白だった。どちらが強かったか、ではなく、どちらが勝ったかという試合だった。強いのはハグラーだった。勝ったのはレナードだった。
興行を前に、レナード陣営は人気を楯にして、自身に有利な条件を要求した。嫌なら試合やんないよ。ハグラーにはハンデを負っての試合だったが、鵜呑みで臨んだ。それでも勝てるからと。
そしてレナードの手があがった。
レナード仕様のリングで、少し前までのような15回戦ではなく12回戦のゲームは、レナードが真骨頂を発揮した。ハグラーを空転させたのは見事だったが、もともとがレナード勝利への周到な御膳立てのもとに行われたものだった。ずるいなあ。
当時から、ほんの数分前まで、おれの中に残る、あの試合の印象だった。
前を行く大型トラックが左折で消えて、視界が開けた。
だけどあれは、今、気がついた。レナード本人にしたら一世一代の大勝負だった。もとよりハグラーと戦うなど、力量が違いすぎて、ありえない話だった。
本人じゃないので、以下、空想で抽象的に言うんだが、目の前の申し分のない相手を見過ごすわけにはいかず、現在の自身の境遇に、かつてない宿願を覚えて、危険という橋を、無謀という声を尻目に渡るべきと、内なる声に従った。ボクサー魂に火がついた。
消えていなかった? "再戦の火"…
立派だけど、立派だから、ほんと残念。
せっかくの一世一代にずるさが透けてしまって、あの試合、語りぐさにできないうらみが残る。堂々のボクシングだったら、たとえ惨敗しても、おれはレナードにしびれたかもしれない。
「なにをぬかしてるんだ、甘ちゃん。世の中はそんなもんじゃない。勝ってなんぼだ。ボクシングもおんなじだ」
と指南役アンジェロ・ダンディはわらうだろうか。
ハグラーは最期までレナードとの再戦の火が消えなかったはずだ。
おれ、ガキのときから草相撲が好きで、嘘だと切り捨てて構わないが、ほとんど無敵だった。中学生のとき一度負けた同級生があって、再戦をいくどか申し込んでも応じてくれなかった。
それがずっと心残りで、老いぼれた今でも、時間なんか戻さなくていい、準備なんかいらない、向こうにその気があるなら、すぐさま彼とやりたい、ってね。

ハグラーとおれじゃ、次元がまるで違うが、悔しさをはらすとか、強さを証明するとか、そんなこともあるが、強い相手とやるって、たのしいんだ、だからやりたいんだ。
と、むやみやたらと信号に引っかかる運転で、考えをめぐらせていた。
合掌。
2021.3.23
Photo : H.Inoue
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