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どんな「星」の下に…

更新日:2020年9月20日

手を伸ばせば、いや伸ばさなくても届くところまで引き寄せながら、あと1アクション及ばずタイトル奪取に至らなかったのは、不運なのか、そういう「星」の下に生まれなかったから? なのか――

井上 博雅

Hiromasa Inoue


不運? 悲運?

 前回触れた「器」と同じように、説明がちょっとむずかしい「星」。そういう星の下(もと)に生まれる、なんて言い方をするやつだ。


Hiroyuki Sakamoto(1995)

 そういう"星の下"に生まれなかったってことなのか…そんな意味で思い出すのが、坂本博之というハードパンチャー。特にそう感じさせられたのが、2000年3月、ヒルベルト・セラノの持つWBAライト級タイトルに挑戦した試合だった。


 不運というのか悲運というのか、この展開に持ち込めても、モノにできないことってあるんだ…と。


 自慢の強打を炸裂させ、開始50秒すぎと2分10秒頃に、ダウンも奪う。実らなかった過去2度の挑戦を吹き飛ばすような、これ以上ない優位な展開。


 3ノックダウン制、初回KO奪取、見ていたほとんどの人がそんな劇的シーンをイメージする流れだったのに…


 あと1度、ヒザをつかせるか手をキャンバスにつけさせるかだけでも、そんなイメージ通りになっていた。セラノの腰が落ち、ロープを背にしていなければ倒れていたと思えるシーンもあった。手を伸ばさなくたって届いていた、といっていいくらい「そこ」まで引き寄せていたのに…


なるようになった…のか!?

 あと一撃。


 しかしセラノがそれほど弱ってはいなかったことに加え、坂本自身にまぶたのカットや腫れというトラブルが発生。優位だったはずが、逆に焦ることになる状況に陥り、5ラウンド2分27秒、レフェリーのミッチ・ハルパーンが試合をストップ。


 慌てなくても、また倒す時間は十分にある…という手応えもあってあれ以上強引に行かなかったのか。あるいは、あまりにもうまくいきすぎる展開に内心戸惑い、慌てたのか? なんて想像も当時はした。


 運不運、ツキや相性、タイミング、ちょっとしためぐり合わせの良しあしで、もつれる勝負の綾3カ月後セラノは、ブランク明けで2階級制覇に挑んだ畑山隆則に完敗しタイトルを奪われる。畑山はリング上で坂本を"指名"、実現した一戦は拳史に残る大激闘となるも、世界タイトルという「星」が坂本の手に入ることはなかった。


 なるようになったということか。坂本がセラノに勝っていたら、畑山戦が実現した可能性は低かったとも聞く。


 いつだったか「(特別な何か、強運を引き寄せる力などを)持ってる」なんて言い方が流行った時期もあったが、畑山は持っていて、坂本は持っていなかった、と言い換えることも…できなくはないか。

2020.09.11

Photo : H. Inoue


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