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イチローがいた幸せが失われて2年…

  • 執筆者の写真: H. Inoue
    H. Inoue
  • 2021年3月28日
  • 読了時間: 4分

更新日:2021年3月28日

イチローが現役を引退してから、はや2年。日本で1278、メジャーで3089ものヒットを積み重ねた不世出の安打製造機があの日の会見では口にしなかった「変化」って、何だったのだろう…?

井上 博雅

Hiromasa Inoue


Ichiro, 2019

 2019年3月21日から、もう2年…


 この日に東京ドームで行われた、オークランド・アスレチックスとの開幕シリーズ2戦目のゲーム中、「一線を退く」の一報が伝えられた、シアトル・マリナーズのイチロー。


Ichiro, 2019 / ©Seattle Mariners

 現役最後になったメジャー10734(日米通算14832)打席目、ショートへの一打は内野安打か、と思ったが間一髪アウト。3089(日米通算4367)ものヒットを放ってきた稀代の名プレーヤーも、次の1本、3090本目が打てず苦悩した。


 わずか2試合、結果6打席だけになったからとはいえ、あのイチローにヒットが「0」と記録されるシーズンが訪れるなんて、想像もできなかった…。


Ichiro, 1997

 9年間プレーしたオリックスで初めてシーズン200安打を達成、7年連続首位打者に輝き、メジャーでも2度首位打者になるなど、10年連続でシーズン200安打以上を記録。30人目の通算3000安打をクリアした打撃だけでなく、守備や走塁でも魅せつづけてくれた、これほどの選手にもやってくる「そのとき」――


 成績が下降し出場機会も減って、所属チームが早く決まらないことすらあったり、つねに「ひょっとしたらそろそろ…」なポジションにいたとはいえ、プレーヤーであることに違和感を抱くことはなかった。しかしいろいろな番組で流される過去の映像を見返すと特に、最後の2~3年はどことなく小さく見えた気がする。


 スタンドに残って「別れ」を惜しんだ満員のファンに手を振り、深夜、日付が変わろうかという時間からの会見に臨むイチローをテレビで見ながら、ある記者が発した「打席内での感覚の変化は…?」という質問に自分も身を乗り出した。


Ichiro, 2004

 たぶん「へえぇそうだったのか!」な答えが聞けたはずの、個人的にはいちばんいい質問に思えたが――


 答えるには長い時間が必要と考えたからか、野球以外のメディア関係者も多い場だったのであまり専門的になる話は避けようという意思がイチローにあったからか、別の理由からか……「いる? ここで。ウラで話そう、あとで(笑)」と、かわされていた。


 質問した記者さん、ウラで聞けたのだろうか。その後いろいろな番組や誌面を見たり読んだりしたが、この問いの答えに準ずるようなコメントを、イチローはまだ発していない…よなァ(読まなくなって久しい新聞に載ったんだろか)。


気になった「感覚の変化」

 メジャー3000安打まで「あと156」となり、2015年のシーズンをマイアミ・マーリンズで迎えるのが決まった頃だったか。3000安打達成を機に…と親交あるライターや編集者に提案した本のことを思い出す。


 抑えたり、打たれたり、タイトルを争ったり…といった、対戦する(した)メジャーリーガーたちからは、ICHIROのスキル、スピード、パワー、メンタルはどう見えているのか。


 本人の記録やコメントは、頼まなくても十分に報道されるが、対戦相手の(本音の)コメントを見聞きすることは、それほど多くない。以前読んだ『対角線上のモハメド・アリ』――原題:Facing Ali―― をヒントに、対戦者の視点でイチローについて書かれている一冊があったら自分も読みたい、と考えたのが発端だった。

(幸い企画は通り取材・制作が進行。16年9月に大記録は達成され、自分も校正などの手伝いをさせてもらい、めでたく刊行されたのだった)


Ichiro, 2012

 この16年だけわずかに増えた以外、11年以降前年のヒット数を上回ることはなかったイチローが「打席内での感覚の変化」(あったはず、イチローなら感知していたはず…と想像する)を覚えたのはいつなんだろう?


 前年まで10年も続けていたシーズン200安打と打率3割(オールスター出場やゴールドグラブ賞も)が途切れた11年の頃か、東京で開幕を迎え4安打する好スタートを切るも7月にニューヨーク・ヤンキースへ移籍する激動があった12年の頃か、規定打席をクリアした最後のシーズンになった13年の頃か、ひょっとしたらもっと前、200安打していた頃なのか……


 イチローがいた幸せが失われて2年がたった今も気になっている。

2021.03.28

Photo : H.Inoue


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