いちばん高名な試合
- H. Inoue
- 2021年11月1日
- 読了時間: 1分
12ラウンズ2160秒…まで、残り2秒。ボクシングの魅力と残酷さが凝縮されたアンビリーバブルな結末を見たあの試合を、また思い浮かべた――
下里 淳一
Junichi Shimozato
1990年3月、アメリカ・ネバダ。
常勝フリオ・セサール・チャベスがメルドリック・テーラーの技巧と勇気に手を焼き、攻めあぐねて、ポイントを失ってゆく。
最終回、敗北の影がちらつく残り25秒。右カウンターがようやくヒット、ぐらつくテーラーはそれでも攻勢をかけんと、勝利へ、もつれる足を運ぶ。

残り15秒、再びの右でテーラー、ダウン。コーナーポストを背に立ち上がったが、リチャード・スティールはボクサーを見つめ、首を振り、手を振った。
その瞬間、リングに飛び込むルー・デュバの怒声も抗議も、アンビリーバルのどよめきにかき消された。
12ラウンズ2160秒、最後の2秒を残した戦いがボクシング史にきらめいた。
チャベスらしい試合はほかにあるのに、この試合が思い浮かんできて、ここんところしんどいから、チャベスにあやかりたくなったのかもしれない。
2021.11.01
Photo : H.Inoue
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